Beyond The Mountain

登りたいのは山々

野宿ライダー

よく人に聞かれることが多いのですが、僕が本格的にアウトドアにはまることになったのは、20代半ばから始めたキャンプ・ツーリングがきっかけです。山登りとかじゃないんです。

VESPAを手に入れて近畿のあちこちへツーリングしていた頃、テントを運んで旅をすれば宿代もかからないし良いんじゃないかと思ったことがきっかけだったように思います。

とは言っても当時の僕にキャンプの知識は何もありません。

飯盒炊爨は子どもの頃から祖父や父としていたので、飯盒で米を炊く程度の知識ならあったけれど、キャンプは高校1年と2年の夏休みに友人家族に奈良の山奥に連れて行ってもらった程度。もちろんキャンプ道具なんて何一つ持ってません。

そんな時に本屋で手にした本がこれでした。

寺崎勉 新・野宿ライダー―心すれば野宿ライダーになれるかもしれない本

寺崎勉 新・野宿ライダー―心すれば野宿ライダーになれるかもしれない本

 

今考えても最初にこの本に出会った自分は本当にラッキーだったなぁと思います。

タイトルが「野宿ライダー」と、バイク乗りやライダーしか読めない内容かと思いきや決してそうではなくて、アウトドア、つまり屋外で過ごす時間・屋外生活全般について分かりやすく説明されています。実用書としての完成度はむちゃくちゃ高いです。

内容はこんな感じ

  • 第一部 野に住む
    • 「家を建てる」
    • 「めしを食う」
    • 「夜をすごす」
    • 「朝が来た」
  • 第二部 野を走る
    • 「荷をつくる」
    • 「整備する」
    • 「身じたくをする」
    • 「野を走る」

二部構成からなり、キャンプ地探しからテントの建て方、焚き火や料理の仕方はもちろん、果ては排せつの仕方!?まで、ありとあらゆる野外生活のノウハウが詰め込まれています。

また著者が実際に使用した道具の数々が、時に辛口ながらもしっかりとレビューされていることも非常に参考になり、僕自身の道具選びに大きな影響を与えました。
例えばストーブやランタンは赤ガス(ホワイトガソリンではなく乗用車用無鉛ガソリン) が使えるタイプのものを選んだり、最初のテントをモンベルのムーンライト3型にしたり。受けた影響をあげるときりがありません。

10年以上昔に買った本なのに、いまだに年に数回は本棚から引っ張り出して読んでしまいます。そして、何度読み返しても飽きることがありません。読むといつも楽しいしワクワクします。

僕のアウトドア全ての原点と言っても大げさではない、そんな本です。

ただし、ここ最近流行りの「お洒落キャンプ」を望んでいる人には決して向きません。
なんてったって「野宿」ですからね。「お洒落」の対極、180度反対側のことばかり書かれています。
ドカシー(ブルーシート)の使い方とか、後片付けの手間を減らしかつ貴重な水を洗い物で無駄にしないため前夜から残ったコッヘルの米にラーメンをぶち込んで雑炊を作るだとか、とにかく野外で生きていく実践的な内容ばかりです。ある意味サバイバルに近いのかも知れない。
だけどそれらが実際の野外生活でどれだけ役立つことか。
お洒落アウトドア雑誌だけでは決して知り得ない実践方法が、これでもかとたくさん載っている、それがこの本の魅力です。

著者の文章も魅力的なので、以下少し引用。

キャンプ場でのキャンプは嫌いだ。
管理された自然の中で、
自然など感じられるわけはない。
人が来ない場所に、
人に見られない場所に、
ひっそりとテントを張る。
包み隠しのない自然と向き合っている。
だから、自然にウソはつけない。
外ヅラや外見ばかり気にするような、
薄っぺらな人間など、
いっぺんで見抜かれてしまう。
そこに一夜の宿を張らせてもらう。
草を何本か踏まさせてもらう。
朽ちた木を燃やさせてもらう。
できるだけ早く土に返るように、
排せつをさせてもらう。
そして、
なにもなかったかのごとく立ち去る。
人はいつの頃からか、
自然を支配している気になってしまったのか。
土が育んだ物を食べさせてもらい、
空気を呼吸させてもらい、
水を飲ませてもらっている。
いつも暖かい太陽を浴びさせてもらっている。
自然はウソをつかない。
晴れた分だけ雨が降る。
なにもかもが休む夜が必ずやってくる。
そのままを受け入れるしかない。
その中でひっそりと生活するしかない。
だから野宿。
いつでも野宿。 

旅に出たい、誰にも干渉されず過ごしたい、土のにおいを嗅ぎながら眠りたい
そんな時に読みたくなる1冊。

 

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いまから10年前の2003年、インテックス大阪で開かれた大阪モーターサイクルショーでお会いした著者の寺崎勉さんとのツーショット。
大切な1枚(マッシュルームカットな僕の姿も貴重。笑)